白いお皿の上には(創作BL短編)

毎日が重くて辛い、どんな時も考えるのは……
『どうやったら、怒られないか……どうやったら、手間をかけずに良い成績を……いや、違う。どうやったら楽に金が稼げるのか』
そんな気分が落ち込むような、今の自分にはどうしようも出来ない事を俺は思い。
日が経つ度に情勢が悪くなる、賑やかだった繁華街を。
重い足取りで進みながら、このまま必要最低限の物しか置くことが出来なかった、家賃の安さで選んだ住みにくい。
『やれる事は、寝る事とお湯をわかす事しか出来ない場所』
に帰るべきかと、今日は何故だが分からないがそう思って。
いつもだったら、通ることすらない道へと歩きだし…。
シャッター街になってしまった、薄暗くて細い道を進んで行けば。
ぽっつりと、一件。
まるで隠れ家のような、ダイニングバーがあって。
生い茂る草木がどこかおどろおどろしく、かなり中に入るには勇気の居る店構えだったので、俺はびくびくと狼狽えるように……。
店の前で、数分悩んだ後。
「どうせ……家に帰っても、寝るだけだし……たまには冒険するのも良いことだよな」と誰も居ないのに、誰かに言うように呟いて。
覚悟を決めたようにダイニングバーの中に入れば、なんとそこは。
黒と金のアールデコチックな内装で、高級料理を楽しむお高めのような店内だったので。
思わず俺は、
「すごっ……めっちゃ高そうな家具、メニューもやばそう、水ぐらいしか頼めないかも」
と驚きと、自分の現状を口にだしてカウンター席しかない店内を歩けば。
「流石に、水だけで帰られるのはちょっといやだな…。特に昔の友人にそんな事をさせるのはね」
そう遠い昔、毎日のように聞いていた友達だった男ーー圭典に声をかけられたので咄嗟に俺は。
「うぉっ!? へぇっ……!! 圭典なんで? どうして、こんな場所に?」
「こんな場所にって? ここは俺の店なんだけど…。店主が、自分の店に居なくてどうすんだよって感じなんだが?」
「店主!? だって…えぇぇぇええええええ!! マジで!? 嘘、全然イメージわかないし!! むしろ、お前俳優とか、モデルとかにはならなかったのかよ」
俺は学生時代、誰よりもカッコいい容姿を持っていた圭典を思い出しながら、今も変わらず…いや、むしろさらに格好良くなっている。
美しすぎて、逆に背筋が凍り付くような危なさとミステリアスな雰囲気を持ち合わせた彼の近くにまで行けば。
彼はカウンターの奥で、この場所を統べる王だと言わんばかりの立ち振る舞いをして。
「……モデルねぇ、忠が俺になって欲しいってあの時に言ってくれてたら、なってたかもね。でもさ…あの時君、カフェのマスターとかになったら?って嬉しげに言ってたよね。だから、俺は今カフェのマスターをやってるんだ」
「へぇ!? えっ……マジで。というか、俺そんな事いつ言ったっけ?」
「ハァっ!? ちょっと酷くない? 高校一年生の学祭の時言ってくれたじゃないか? もしかして忘れてる……のか、まあ何年も前だから忘れてるのも仕方がないけどさ」
「ごめん……さっぱり忘れてた。本当にごめん…だから、忘れちゃった俺にも思い出せるように、その時の昔話をしてくれないか? 折角こんなところでお前と逢えたし、あと…気分転換にもなれそうだから」
カウンターの奥の席に座りながら、荷物を床に置いてある収納用のボックスに乱雑にいれて。
光りで満ちあふれていた、過去のあの日を思い出すべく。
俺は圭典の言葉に耳を傾けた……。
あとがき
リーマンとカフェのマスターの高校時代の淡い恋模様的なお話のはじまりとして書いた作品です。
続きは気がむいたときにというか、普段このような世界を書かなすぎたので挑戦として書いた実験作だったりします。
世界観的にはAdd to Blackcoffeeの主人公の同僚の誰かかもしれませんね。