姫氏原雪白は地球を滅ぼす(創作BL)(2020年作)※中南米神話モチーフあり

上位存在に好かれる男の娘系主人公がある人(?)に出会うお話
このお話の再構成版はこちらのフリーゲームになります
雪白の愉快な一夜
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「……どうしよう、迷ってしまった」
そう走りながら黒髪を腰まで綺麗に伸ばした、美少女のような、美少年の姫氏原雪白(きしはらゆきしろ)は呟き。
自分を犯し殺そうとする相手から逃げる為に、迷い込んだ山奥の中で。自分が完全に道を失ったという事を、悟り。
「はあぁ……ほんとどうしよう、無事生きて帰れるのかな?」
と小さく呟きながら『まだ望みはあるはずです』と願うように…。
「いえ、こんな事を思ったらダメだ。そうだよね可愛いふくろうさん、狐さん、ジャガーさ……ん?」
「ってジャガー!? わわわわ逃げないとっ!!」
雪白は自分を心配して集まる可愛らしい動物と一緒に突如現れた、金のような銀の髪を持つ、肩まで伸びたクセのある髪に黄色と黒のまだら模様の獣耳が生えている、背筋が凍りつくほどの絶世のワイルド系美青年に驚き。
大きく叫びながら、うさぎのように逃げ出そうとすれば。
「おいっ……何故逃げる?」と獣耳青年に強く言われ、雪白はその言葉に。
「あわわわわわわっ……助けて紫士兄さん私、心の臓をえぐりだされて、食べられるんだ」
と自分の死を感じて、ここには居ない兄に助けを求めると…。
「なっ……そんなことはまだしない。だが確かに、お前は美味しそうではあるな」
雪白の言葉に男はそう言いながら、怯える雪白をゆっくりと抱き寄せて、優しくお姫様抱っこをするので…。
「……やっぱり、もうダメだ…。私はこんな場所で終わる夢の住人なんだ」
「だから、そうはやまるな!! せっかく良い匂いがするのに、そう喚くと匂いが嗅げないだろう?」
「へぇっ……匂い?」
雪白は男の発言に驚いたように言い返しながら、自分が知らぬ間にお姫様抱っこをされている事に気がついて、あたりをちらちらと見つめれば。
「そう匂いだ、お前の匂いはとても落ち着く……癒される」
「そうなんですか? 良い匂いか……うーん、私ではわからないですけど。よく動物さんたちに好かれるから、よほど良い香りなんですかね」
「それは……もうたまらなく良い香りだ。だから、俺の双子の兄貴が管理する地に無断で入ったお前を殺さずに、ちゃんと帰してやろう」
男は物騒な発言をしながらも、何処か戯れるように言い放つので。
「ほぎゃっ……まさか殺す気あったんですか!!」
「……少しはあった、だが今はない。そんな事よりお前の名はなんだ」
強く言い放ち、男は抱きかかえた雪白を抱えて飛び上がり。
星空で輝く夜空を背にして、何処かの神話の神々のように空を舞いながら…。
「……沈黙は死に繋がるぞ。生きて帰りたければこの俺、テスカトルに名を告げる事だな」
「そんな風に脅さないでくださいよテスカトルさん。私の名は姫氏原雪白です。気安く雪白とよんでください」
「雪白かっ……お前に似合いの名だ。そして、俺の名前とも似合う名でもある」
「?」
テスカトルはそう何処か照れくさそうに呟きつつも、鬱蒼と生い茂る森の上空を鳥のように飛ぶので。
雪白はこの現状に驚きながらも、内心では……。
(凄いです。これが鳥さん達がいつも見ている光景なんですね…。あと今日の夜空も綺麗で、なんだか私ってある意味ラッキー?)と思って、この出来事をふわふわとした気持ちで、体験していると。
テスカトルは丁度良い場所を見つけたのかは分からないが、上空から地上へと。人ではない者だから出来る動きで降りて、抱きかかえていた雪白を優しく地に降ろし…。
二人は、メソアメリカにある古代文明の神殿のような場所の入り口の前で。
「……さっきの言葉は忘れろ、良いな。あと、さっさと行くぞ雪白。それともここで死にたいのか?」
「えっ……ちょっとそう脅さないでくださいよ、すぐに行きますから」
雪白は追いかけるように歩いて、石造りで造られた神殿の特徴的な壁画をじっと見つめながら。
(なんかこの壁画、マヤ・アステカの生贄の祭壇みたいな雰囲気がありますね……。というかここ、日本なのになんで…遠く離れた場所の遺跡が在るのかな? まさか……私、知らぬ間に新しく出来たテーマパークに迷い込んでしまったのでは? きっとそうだ、だからテスカトルさんに獣耳と尻尾があるんだ!! あれはゲストを楽しませるように着けてるヤツですね)
そう考えて、明らかに見てヤバそうな雰囲気がしている神殿の中に。
アトラクションを並ぶ感覚で、雪白は入って行けば。
神殿の中には何かの儀式を図にした壁画が、天井までびっしりと描かれており…。中央には石で造られた何処か恐ろしくもある石像が、一つだけ置いてあるので。雪白は『此れは何でしょうか?』という感じにふらふらと、その石像の近くにまで歩いて行くのを。
「おいおい、勝手に歩くな。お前は死にたいのか?」
と強く言い放つテスカトルに止められて…。
そのまま彼に引っ張られるように、壁画で彩られた通路を10分程歩き。
━━この神殿の最深部のような場所に、辿り着いたところで。
「今日はここで、休め。じゃないと……お前は俺の半身でもある俺の兄に無惨に殺されるだろう」
「えっ……そんな……。嘘ですよね?」
「嘘ではない、だが……お前がここで大人しく眠って居れば。お前は生き残るだろう…。良い匂いを嗅がせてくれたお礼に、この俺が一晩だけ護ってやるから」
「テスカトルさん……ありがとうございます。本当にありがとうございます。あと、私の動物に好かれる不思議な匂いを好きになってくださって本当に本当に、ありがとうございます」
雪白はそう微笑んで、心からの感謝を告げれば。
「ああ好きだぞ、獣を惑わす香りもお前自身もな」
「へぇっ……それって、まさか!?」
「ああ、そのまさかだ。お前の血肉は、とても美味しそうだからな」
テスカトルは意地悪く言い放ちながら、王の寝室のような場所に雪白を連れて行き。壁に大きく飾られた黒曜石の鏡をじっと見つめてから、ピタリとその場所に立ち止まれば…。
「やっぱりそっちですかっ!! 雪白はあなたの贄じゃないです」
「あははは、そう喚くな冗談だっ……っていう遊びはここまでにして、お前はもう寝るのだ。良いな、そうでなければ」
「テスカトルさん寝ろって、私、まだ……眠く……な……」
雪白はテスカトルの言葉に、そう最後まで言い返す事が出来ないまま、糸の切れた操り人形のように。寝台にぱたりと倒れ込んでしまうので。そんな光景を唯々じっと、何処か切なげな瞳で見つめていたテスカトルは。
「おやすみ雪白、そして…さよなら、一晩限りの愛しき人よ」と甘く優しく囁くように、言い放ちながら。
黒曜石の鏡の中に映り込むもう一人の自分でもある、金のようで銀の髪を後ろで一つに縛った長髪の半身にこう続けて、
「……イツカトル、俺達の領域を害した罪人どもはみんな太陽の為の血肉となったか?」と話しければ。
「テスカトルこそ……。この星の為に贄となる者を見つけたか?」
「……それに関しては、すまないがまだだ」
「そうか? それは残念だな……。今日あたりに、肉欲に狂った愚かもの達が贄を連れて、ここに来ると思ったのだが……。俺の予知も外れる日があるみたいだ」
そうイツカトルと呼ばれる青年は鏡の中で、ケラケラと意地悪く笑いながら。獰猛な獣のように鋭い赤い瞳で、別側面のテスカトルを射抜くように睨みつければ。
テスカトルはそれに対抗するように、ケラケラと同じように笑って。
「マジかよ、ヤベェな。俺とお前の感も鈍るなんて……今回の贄はそれだけ星の為には良いって事だな。お前もそう思うよな?」
「……嗚呼そうだな。俺もお前と同じ思いだ、だからこそ。姫氏原雪白を見つけたら、二人で殺そう」
「そうだな……。この星の為に、必ずこの手で……」
テスカトルは悪役のように言いながらも、心の中では。
(必ず、お前を殺させはしない…。可愛くてか弱い小さき人よ。お前は俺の事をよく知らぬが、俺はお前をよく知っているのだから)と呟き。
イツカトルからは絶対に見えない位置で、静かに眠る雪白の頬を、優しく慈しむかのように、静かに撫でるのだった……。
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「あ……れここはどこだろうか?」
ふと目が覚めた雪白はそう呟きながら、あたりを見渡すと。
そこは遺跡のような神殿ではなく、自分の家の近くにある。小さな公園のベンチの上だったので……。
「えっ……どうして、こんな所に? テスカトルさんは…?」
と驚きの声をあげて、ベンチから立ち上がれば。
「おーい雪白!! 何処にいるんだ?」
「雪白!! 何処? 嗚呼……心配だ、心配で心配で仕方がないよ」
焦ったように叫ぶ、聴き慣れた声が耳に入ってきたので…。雪白はそれに返事をするように、大きく。
「三さんどうされたんですか? そんなに息を切らして、あと兄さんも」
「どうしたって、何だよ!? 馬鹿雪白!! 兄さんはな、お前が居なくなったから心配で、晩御飯も食べずに探してたんだぞ!!」
「えっ……あっ……ごめんなさい。その……ちょっと変質者の方に追いかけまわされてたら、こんな時間に……」
雪白は自分が山道を逃げていた原因を、言い訳をするかのようにそう答えれば。
「変質者に追いかけられた……だと、姫雪白になんて事をするんだ!! 犯人、見つけ次第成敗してくれる!!」
「あわわわ、三さん落ち着いて…。変質者さんたちは多分きっと、もう成敗されてると思うので……」
「そうなのか!? なら、良いや。でもほんと、姫雪白が無事でよかった」
茶色のぱっつんヘアーの三は、無事に帰ってきた雪白を祝うように言いながら。友達がするような抱擁を雪白にしようとして、手を差し出すので…。
雪白は隣にいる兄の紫士の顔色を、伺いつつ。
「あはは、ありがとうございます。でも遠慮します……。だって紫士兄さんに悪いから……。ねぇそうだよね兄さん」
「そう言うな、雪白。私のことなど気にするな。あと無事で、よかったよ……本当に良かった」
「はい、兄さん……。御心配をおかけしました」
ペコリと綺麗なおじきをして、雪白は感謝の思いを二人に告げれば。
「そうだよ……姫雪白、まあでもさ……ほんと無事で良かったぜ」
「はい、本当に。何事もなくてよかったです」
雪白は夜から朝に移り行く空を唯々眺めて、ここには居ない。
自分の命の恩人に向けて、こう言いながら。
最後に、
「また逢いましょう、一晩限りの愛しい人よ……」
そうテスカトルが、別れ際に告げた言葉を。同じような声音で優しく呟いた。