『失礼な事言わないでよ』と言いたげなニュアンスと、猛烈に不機嫌ですとしか言えない態度で、アレクセイは食い気味にそう答えるので。
俺は余りにも勢いが強い彼の返答に、唯々。
「えっ……あっ……その、なんかごめんなさい」と申し訳なく言えば。
「……いや、こっちこそすまない。今のは気にしないで欲しい。というかそんな事よりも、ヴィクトルは此処に誘拐されたで、間違いないんだね?」
「だと……思う、気がついたら街から此処に居るからな。それ以外に考えられないぜ」
「街から来たの? 相手は分かる? あと身体は痛くない、少しでも痛かったらすぐに言ってよ。すぐに治してあげるから」
アレクセイは口早にアレもコレもと言った感じに、俺にひたすら話しかけて……。
じっと、左右で違う色の瞳で俺を。
医師が診察するように見つめてくるので、思わず俺は。
「痛い場所か……そう言えば、足がちょっと痛むかな。でもこれぐらい平気だぜ、痛みには俺強いんだよ!! カッコいい漢だし、あとこんなの日常茶飯事だから……」
──だって、そうでなければこんな世界で生きていけないから。
いや本当は、こんな終わってる世界になんか、長く居たくない気持ちだけど……。
記憶を無くしたままで、現し世と別れるのだけはどうしても嫌だから、自分の記憶をさっさと早く思い出したのに……。なかなか上手くは行かなくて『この世界の不条理さに』、泣きたくなりながら。
アレクセイから目線を少し外し、声だけは強く言い放つようにそう返せば。
「足が痛いだって!? それはダメだ、一大事すぎる」と怖いぐらい驚いた表情と声音で、怪我してる当人より一大事な反応を見せながら、彼は俺をおもむろに壊れ物を扱うように……。
ぎゅっと優しい手つきで、お姫様抱っこをしてから……。
──この部屋から飛び出すような勢いで、扉を片足で蹴り開け。
薄暗くて、じめっとした何とも言えない臭いがするゴミと鉄錆だらけのいかにも何かありそうな廊下へと向かうので。
「ば、馬鹿!? お、お前こそ死ぬきかよ!! わ、罠とかあったらどうするんだよ!!」
「ああ、ごめんごめん。でもそんなに怒らないで……あと、もう何も心配しなくて良いんだよ。君は黙って僕の腕に居てくれれば。こんな物騒で危ないものしかない場所でも、これ以上怪我せずに出られるから」
「…何だその自信は? 根拠はあんのかよ?」
「根拠? 死が死なないのは当然だよね。それ以外に何かあるのかな……なんて、冗談は置いといて。そんな雑談よりも、此処から出るよ」
アレクセイは低く真剣な声音で、そう答えるので。
俺はそれに、黙って静かに頷いて。
ありとあらゆる場所に仕掛けられている、デストラップを……。
──全て把握しているかのような動きで、華麗に回避する彼の腕から落ちないように、彼の肩に腕を回して、ぎゅっと強く抱きついて。
このイかれた廃墟から、俺たちは何事もなく脱出するのだった……。